症例概要
患者: 50代男性、初診
主訴: 急性腰痛(発症から2日経過)
来院経緯: 紹介来院
立ったり座ったりの動作が著しく困難な状態で、お問い合わせをいただき診察に至りました。
問診・生活背景
発症のきっかけは、立ち上がりの瞬間にビリッと走った痛み。翌日は仕事を休み、自宅でほぼ寝たきり状態が続き、起き上がることもつらい状況でした。
慢性的な腰痛はなし。過去に急性腰痛の経験はあるものの、それまではいずれも1日程度で症状が落ち着いていました。今回は2日が経過しても症状が持続・増悪していることを、本人自身も「いつもとは違う」と感じていました。
腰部への負荷として思い当たる点を聞くと、
- ゴルフ:ラウンド月3〜4回(週1ペース)+練習週1回
- デスクワーク:座位での業務時間が1日の大半を占める(会議を含む)
- 日常的な体のメンテナンスは特になし
という状況でした。痛みの部位は右仙腸関節付近〜臀部。腰全体の広範な鈍痛に加え、ピンポイントでの強い痛みが併存している状態です。
初診スクリーニングの考え方
急性腰痛の初診でまず意識するのは、「今すぐ対応すべき構造的問題があるかどうか」の除外です。
今回のケースでは、
- 過去の急性腰痛は1日で治まっていたのに、今回は2日経過しても症状が強い
- L4-5の狭小化の既往がある
- 右仙腸関節付近にピンポイントの強い痛みがある
という複数のリスク因子が重なっていました。急性椎間板ヘルニアを含めたスクリーニングを丁寧に行うとともに、本人への説明を最初に行うことを優先しました。
「今回、なぜこんなに強い痛みが出ているのか」という疑問と不安に先に向き合うことが、その後の施術への信頼につながります。考えられるリスクを正直に伝えたうえで、対応可能なケースなら安心してもらえるよう言葉を添える——この順番を大切にしています。
検査所見
椎間関節の除外
PSISを押さえながらの前屈動作を確認しました。
- 座位前屈: 90度弱まで痛みなく行える
- 脊柱伸展: 痛みなし
- 椎間関節部への伸展圧迫テスト: むしろ「気持ちいい」との反応
これらの所見から、椎間関節性の問題は可能性が低いと判断しました。
ヘルニアの可能性の評価
椎間板やヘルニアは回旋方向への負荷に弱い組織です。過度な回旋は避けながら、動作確認を進めました。
- 座位回旋(左右): 両方向で腰部に症状が出る
- 立位左回旋: やや症状が出る
- 立位右回旋: 症状が出ない
ここで一つ重要な所見が得られました。座位での回旋の方が立位よりも腰部に症状が出やすいという点です。
座位の方が腰部への負荷が高くなるのは、胸椎の機能障害が関与しているケースに見られる典型的な所見です。胸椎の可動性が低下すると、腰椎がその代償として余分な負担を引き受けます。座位での前後屈では症状が出なかったという点も、この方向性を支持する所見でした。
全体像の整理
問診では「普段は腰よりも首・肩に症状が出やすく、特に左肩上部から首にかけて」という訴えもありました。この情報が、胸椎機能障害の関与という仮説をさらに補強しました。
所見のまとめ:
– 急性椎間板ヘルニア・椎間関節性:可能性低い
– 胸椎機能障害の関与:可能性高い
– デスクワーク+ゴルフによる胸椎の慢性的な機能低下が素地にあり、今回の急性発症に至ったと推察
施術と結果
施術前は、立ち座りにかなりのこわばりと痛みを伴っていました。
施術後、患者は無意識のうちにしゃがんだり立ったりする動作を行っていました。こちらから「今、しゃがんで立てましたね」と声をかけると、本人も「そういえばできましたね」と気づく状態。
痛みを意識しながら動いていた人が、動いていること自体を意識しなくなる。この瞬間は、施術の手応えとして一番わかりやすい場面の一つです。
この症例で伝えたいこと
急性腰痛の初診では、「何が起きているのか」を素早く、かつ正確に評価することが施術の質を決めます。そのためには病態の知識だけでなく、それを検査で確認するスキルと、患者への言語化・説明力がセットで必要になります。
「前後方向のチェック → 回旋のチェック → 胸椎の評価」という流れは、今後の急性腰痛ケースの定番プロセスとして自分の中に組み込みたいと改めて感じました。
また、患者への説明は「何が考えられるか(リスクの開示)」と「何なら対応できるか(安心の提供)」をセットで伝えること。これは医療との関わり方においても、私たちのポジションを明確にするうえで重要な姿勢です。検査・見立て・説明の精度を上げ続けることが、患者さんの信頼だけでなく、業界全体の信頼にもつながっていくはずです。





