腰痛・骨盤

前屈時の左腰痛——再来院患者こそフラットに診る、腸腰筋アプローチの実際


症例の概要

30代男性、飲食業(立ち仕事・手作業多め)。3日前から腰痛が出現し、症状の変化なく来院されました。

過去にぎっくり腰の経験があり、「この感じ、あの時に似ている」という不安感が来院の動機となっていました。一番つらい動作は前屈。特に左側の腰に痛みが出ます。

実は1年前にも来院歴があり、4回の施術で回復・卒業された方です。同じ時期(3〜4月)に再び同様の症状で来院された形となりました。


再来院患者こそ、まずフラットに診る

「前回と同じ症状です」「あの時と似た感じで……」

再来院の患者さんからこういった言葉が出ることは珍しくありません。患者さん自身の感覚として「似ている」と感じるのは、痛みという主訴が一致しているからです。それ自体は自然なことです。

ただ、そこで施術者側がその言葉を鵜呑みにして、前回のカルテを先に引っ張り出し、「前回はこうだったから今回も同じだろう」と診察を進めてしまうのは危険だと私は考えています。

1年という期間があれば、体は変わります。生活習慣も変わる。年齢を重ねれば体の使い方も変わる。前回と同じ部位に痛みが出ていても、その原因が同じとは限りません。

私が意識しているのは、過去のデータは参考にしつつ、今回の状態は今回で一から評価するということです。過去の情報は見立てを補強するものであって、先入観の根拠にしてはいけない。このフラットな視点が、再来院患者の施術における最初の関門だと感じています。


初期評価——どこから見立てるか

まずは前屈動作のチェックから入ります。

座位・立位での前屈を確認したところ、30〜45度付近から左腰に痛みが誘発されました。

あわせていくつかの動作をチェックします。

  • 肩甲骨内転:明らかな硬さと抵抗感あり
  • 肩関節外転:やや重たい感じ

触診では、広背筋・腋窩部・小円筋・上腕三頭筋腱、三角筋後部周辺にかなりの筋硬結が確認できました。

補足:筋膜ラインとしての文脈
広背筋・肩甲骨外側縁に属するラインは、「深層バックアームライン(Deep Back Arm Line / DBAL)」です。広背筋→上腕三頭筋→前腕の筋膜ライン上で緊張が伝播するため、上肢〜肩甲帯の硬さが腰部の動きに影響することがあります。

この筋硬結部位を確認した後、前屈動作を再チェックすると、45度付近までは症状なく動けている状態になりました。

この所見から、「腰痛の原因は腰そのものではなく、頸椎〜胸椎の機能障害が下行性に影響している」という仮説を立てて評価を進めます。

PSISに対するスプリングテストは大きな所見なし。脊柱形状検査でも目立ったチェックはつかず。

ただし、座位での右回旋で左腰痛が誘発されるという所見が出ました。

これは「背面からアプローチすべき」という判断材料になります。


施術①——背面からのアプローチ

うつ伏せにて施術を開始します。

触診で広背筋・肩甲骨外側縁に筋硬結を確認。筋膜ライン(深層バックアームライン)上の合穴として、肘〜手首間にポイントを取り刺針。

頸部も触診し、椎間関節付近の硬結部位にも合穴を設定して刺針しました。

左腰部(腰方形筋・起立筋付近)については、左右差が見られたため対症療法的に刺針しています。

下肢は:

  • 大腿神経伸張テスト(Prone Knee Bend Test):陰性
  • 股関節内外旋:痛みなし

股関節の回旋への関与は低いと判断しました。


中間評価と再アセスメント

座位に戻り、動作を再チェックします。

  • 右回旋での左腰痛誘発:消失
  • 肩関節外転:スムーズさが改善

ただ、前屈は45度程度まで可動域改善が見られたものの、それ以上では症状が残存していました。

「まだ取り切れていない。前後方向の動き——股関節の屈曲伸展に問題が残っているのでは」という仮説に切り替えます。


施術②——仰向けでの評価と腸腰筋アプローチ

仰向けで股関節の屈曲チェック。

  • 股関節屈曲:陰性
  • 股関節外旋:陰性。ただし対側の上前腸骨棘(ASIS)が浮いてくる代償動作が見られました

ここで、痛みのきっかけについて改めてヒアリングします。

「仕事中にしゃがみ込んで作業する時間がかなり長かった」とのこと。

これは重要なキーワードです。しゃがみ込み姿勢では、股関節・膝・足関節のすべてが最大屈曲位になります。この状態が長時間続くということは、内転筋群にエキセントリック収縮(伸張性収縮)がかかり続けることを意味します。また、腰部も強制的に屈曲位に置かれるため、腸腰筋への持続的ストレスが蓄積していきます。

実際に腸腰筋の触診を行うと、圧倒的な左右差がありました。左側の圧痛が顕著。

右利きの患者さんは、対角線上にある左股関節に重心が乗りやすい傾向があります。この体重の偏りが、左腸腰筋への疲労蓄積を助長していたと考えられます。

また、腸腰筋の関連部位として脛骨内側縁・後脛骨筋にも強い筋硬結が確認されました。


最終的な見立て

  1. 右回旋での左腰痛誘発 + 左腸腰筋・内転筋の硬さの左右差
  2. 腸腰筋の緊張が腰椎を強制的に屈曲位に引き込み、前屈時の左腰痛を生じさせている
  3. 脛骨内側縁・後脛骨筋にも関連硬結あり(腸腰筋との筋膜的連鎖)
  4. 長時間のしゃがみ込み作業による持続的ストレスが、疲労の蓄積と回復の遅れを招いた

動作指導と今後の見通し

処置は単刺に近い手技で行い、刺激後に以下の動作指導を実施しました。

  1. 脊柱を動かす前屈は極力避ける
  2. 股関節主導の前屈動作を意識する(腰を丸めない)
  3. どうしても前屈が必要な場合は、脊柱をニュートラルに保つよう意識する

次回は5〜6日後を予定。

急性期は「まず安静」という考えもありますが、何が起きているかを整理できていれば、適切なアプローチで症状を変えることは十分可能です。今回も、段階的な評価と再アセスメントを繰り返すことで、原因を絞り込んでいくことができました。

また、今後の見通しを丁寧に伝えることは、患者さん自身の不安を取り除くことにつながります。それは結果として自己治癒力へのプラスの影響を与えるものであり、今後も常に意識して取り組んでいきたいと改めて感じました。


この症例で伝えたいこと

再来院患者の「前回と同じ」という言葉を、そのまま受け取らない。

体は変わり続ける。生活も変わる。痛みの出ている部位が同じでも、その原因が同じとは限りません。過去のデータを参考にしながら、今回の状態は今回でゼロから評価する——この姿勢が、再来院患者の施術における信頼の土台になると感じています。

また、「どこが原因か」を特定するためには、問診の精度が欠かせません。「仕事でしゃがみ込みが多かった」という一言が、見立てのすべてをつなぐ鍵になることがあります。

ルーティンになりそうな再来院こそ、丁寧に向き合う価値があります。

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