施術家の思考

ぎっくり腰の奥に何を見るか

40代女性の方が、急性の腰痛で来院されました。

ご紹介での初回。問診を進めるうちに、腰痛よりも気になる情報が得られました。

下半身のむくみが際立っています。靴下の跡もくっきり残っている状態です。

むくみの状態を聞くとどうやら、2回目の出産から酷くなっているとの情報を得ました。

さらに進めていくと、数年前、双子のお子さんを緊急帝王切開で出産されていたのです。予定より早い出産だったこともあり、切開は縦方向に入っていました。傷跡はケロイド状になっており、術後半年ほど痛みが続いていたとのこと。その出産を境に、腰痛が慢性化し、下半身のむくみも強くなったと話してくださいました。

この経緯を聞いたとき、私の中で仮説が立ちました。

緊急帝王切開の縦切開は、組織にかかるテンションが大きい。ケロイド化した瘢痕は、その周囲の組織の柔軟性を損なっている可能性があります。癒着というほどではないとしても、骨盤内の組織が硬くなれば、血流や体液の循環に影響が出ることは十分に考えられます。腰痛とむくみの慢性化は、そこと無関係ではないかもしれない。そう感じました。

まず、急性腰痛への対応を行いました。

評価をすると、腸間膜根の粘弾性が著しく低下していました。そこへのアプローチと、仙骨周囲の緊張を緩める施術を組み合わせました。動きは回復し、来院時の痛みはほぼ消失しました。

続いて、瘢痕部位への介入を始めました。

ただし、1回で完結するとは思っていません。瘢痕組織の変化には、継続的なアプローチが必要です。その旨を丁寧にお伝えし、今後の方向性を共有しました。

あわせて、骨盤底筋や腹横筋・腹直筋などのセルフケアについても指導しました。帝王切開後は腹部の筋群が機能的に使いにくくなるケースがあります。体幹の再構築は、施術と並行して取り組む必要があると判断しました。

この方の「主訴」はぎっくり腰でした。でも、今回の施術で私が向き合ったのは、数年間積み重なってきた身体の変化でした。

初回にどこまで情報を引き出せるか。これは技術の問題でもありますが、それ以上に「何を聞くか」「何に気づこうとするか」という姿勢の問題だと感じています。

主訴が解決したとき、患者さんは「終わり」と感じます。でも私たちが身体の奥にある文脈を丁寧に共有できたとき、そこに初めて「続き」が生まれます。

ぎっくり腰で来院された方の問診で、あなたはどこまで掘り下げていますか。産後の経緯や手術歴を確認するタイミングは、自分の中で決まっているでしょうか。

主訴の奥に何があるか、一緒に考え続けていきたいと思っています。

関連記事

  1. スポーツ・外傷

    症状を自覚するタイミングから逆算する——60代男性の荷重時足部痛と施術対象の絞り方

    症例概要60代男性。右足首からかかと、アキレス腱部にかけて、足をつく…

  2. スポーツ・外傷

    「乳がんの手術のせい」と言われ続けた肩の痛み

    60代の女性が来院されました。主訴は左肩の痛みと可動域制限。腕が上…

  3. 施術家の思考

    手術を勧められた患者さんに、私たちは何を伝えられるか

    50代前半の女性の患者さんです。整形外科で「即手術を」と言われ、他…

  4. スポーツ・外傷

    肉離れから1ヶ月半、なぜ腫れが取れないのか——標治と本治、両面からのアプローチ

    症例の概要40代男性、初診。スノーボード中に急激な足関節背屈がかか…

  5. 内臓調整

    右背部痛2年。肩ではなく、肝臓を診た理由

    60代の女性の患者さんが来院されました。主訴は右肩甲骨まわりの背部…

  6. 内臓調整

    内臓・自律神経を見ない施術家が取りこぼすもの

    右肩の肩こりを訴える患者さんが来院したとき、あなたはどこから問診を始め…

  1. 施術家の思考

    なぜ、痛みのある腰に直接鍼を打たなかったのか——貧血既往患者への腰痛アプローチ
  2. 施術家の思考

    施術が届かない時間に、何が起きているか
  3. 内臓調整

    筋の張りの向こう側にあるもの
  4. 施術家の思考

    初診時に信頼される施術者の在り方——20代女性の疲労性腰痛から見えた、ヒアリング…
  5. 内臓調整

    「頸椎の隙間が狭い」という診断の先にあるものー頸部痛再発を防ぐ胸椎回旋というアプ…
PAGE TOP