痛みのある部位と、原因のある部位は、必ずしも一致しない。特に外傷のきっかけがはっきりしない膝の痛みでは、今かばっている側だけを見ていると、本当の原因を見落とすことがある。
1週間ほど前、力を入れた瞬間に左膝の裏から外側にかけて強い痛みが走り、一時は一歩を踏み出すことすら困難だった女性が来院された。少しずつ歩けるようにはなってきたものの、脚全体のこわばりと、最初の一歩への強い恐怖心が残っていた。膝が完全に伸びきらない状態で体重をかけるため、歩き始めや荷重の瞬間に痛みや重だるさが出やすい状態だった。整形外科では変形性関節症と診断されていたが、2年前に痛めた右膝の内側とは異なり、今回は膝の裏側からやや外側という場所であることに、本人も違和感を抱いていた。
見立てー「かばっている側」が原因とは限らない
まず足元から見ていくと、足首の硬さと扁平足があり、本来は足首・足部で吸収されるはずの着地衝撃が、そのまま膝へと伝わっている状態だった。加えて左脚には強いむくみがあり、組織の腫脹が皮膚や周囲の感覚受容器を圧迫することで、軽く触れただけでも痛みとして感知されやすくなっていた。これは力学的な問題とは別軸の、末梢の感作という現象として捉える必要がある。
背骨全体を見ると、本来はばねのように衝撃や荷重を分散する機能が低下しており、特に腰周辺に負担が集中していた。分散しきれなかった圧力は股関節や膝へと逃げていく。さらに胸椎の可動域は本来70〜90度程度あるべきところが30度程度しか出ておらず、その分を首だけで補おうとするため、頸部にも突っ張りが生じていた。胸椎の可動性低下が隣接する部位に負担を波及させるという構造は、これまでの症例でも繰り返し見てきた通りである。
立ち姿勢を確認すると、痛みのある左脚をかばって体重が右側に偏っていた。しかし実際に評価すると、以前痛めた右膝の方こそ十分に伸びきっておらず、右膝が伸びない分を長期間左脚がかばい続けてきたことが見えてきた。今回痛めたのはその左脚であり、「今かばっている側」と「そもそもの負担源」が逆転していたことになる。今の代償パターンだけを見ていると、この順序を見誤る。
アプローチー局所ではなく、土台から整える
見立てに基づき、施術では骨盤や背骨全体のバランスを整え、無意識の体性感覚(姿勢を保つための身体感覚)を取り戻すことを優先した。膝そのものへの直接的なアプローチに偏らず、左脚と腰部への鍼を組み合わせることで、負担が逃げていた経路全体に働きかける形をとっている。土台となる骨盤・脊柱の機能を立て直すことで、膝にかかる負担そのものを減らすことを狙いとした。
施術後には股関節がすっと開くようになり、膝を深く曲げた際の重だるさや抵抗感が明らかに軽減した。背中のねじり動作や首・肩の上がりやすさも大きく改善しており、局所ではなく全身の連動性に働きかけたことの効果が、初回から明確に現れた形だった。
考え方ー痛みの場所と原因の場所を切り離して考える
外傷のきっかけがはっきりしない痛みほど、今出ている症状や、患者様自身がかばっている側だけを見て判断してしまいがちだ。しかし今回のように、過去の外傷が十分に回復しきらないまま長期間代償が続き、その結果として反対側に負担が蓄積していくケースは少なくない。今かばっている側を治療の起点にするのではなく、なぜその代償が必要になったのかという経緯まで含めて評価することが、根本的な改善への近道になるのではないだろうか。
セルフケアとしては、長時間同じ姿勢で座り続けることによる負担は運動だけでは帳消しにできないため、足を組む向きを左右で変えるなど、座り方をこまめに変えることを伝えている。また歩行時には、つま先や踵に偏らず、足の裏の中央ー踵の骨のもっともつま先寄りの位置ーで着地し、体重を乗せるよう指導している。









