60代の女性の患者さんが来院されました。
主訴は右肩甲骨まわりの背部痛。「ずっと痛い」という表現が印象的でした。期間を聞くと、2年近くになるとのこと。整形外科、鍼灸、リハビリ。いくつかの施設を経ての来院でした。
最初に肩関節の可動域を確認しました。硬さはあります。ただ、90度以上は上がる。日常動作を大きく制限するほどの可動域制限ではない。「この痛みの主因は肩関節にはない」という印象を、評価の早い段階で持ちました。
では、何が痛みを引き起こしているのか。
私が次に着目したのは腹部です。触診で腹腔内を確認していくと、肝臓エリアに明らかな圧の高まりを感じました。硬い、というより、張っている。鬱血が疑われる状態です。
仮説を検証するために抑制テストを行いました。肝臓に軽く圧をかけながら、もう一度肩の動きを確認してもらう。すると、可動域が改善する印象がありました。内臓とファシアを介した連動を示唆する所見です。
ここで施術の方向が決まりました。肩ではなく、肝臓を中心に介入する。鬱血を緩和する手技を選択しました。
ただ、手技だけで終わらせるつもりはありませんでした。なぜ肝臓にこれほどの負荷がかかっているのか。そこを患者さんと一緒に整理する必要がありました。
話を聞くと、毎日の晩酌がありました。量は少ないが、習慣として続いている。服薬の種類も多く、本人も「これ全部必要なのかな」と感じていた部分があったとのこと。油物の多い食事傾向も確認できました。
薬については、私たちにできることには限界があります。処方の変更を指示することはできません。ただ、「主治医に相談してみてください」とお伝えすることはできる。患者さんも前向きに受け取ってくれました。
食事や生活習慣については、できる範囲で具体的にお伝えしました。肝臓への負荷を下げることが、この痛みを繰り返さないための鍵になるという認識を、患者さん自身に持ってもらうことが目的です。
その後、2回目の来院がありました。
施術後2日間は痛みが残ったが、3日目以降に一気に楽になった、とのことでした。鬱血が緩和されるまでには少し時間がかかることを、初回に説明していました。その経過と一致していました。現在は右肩・右背部の痛みはほぼ気にならないレベルまで変化しています。
2年間、肩として診られ続けた痛みでした。
内臓領域への視点が加わることで、評価の景色は変わります。それは技術の問題だけではなく、「何を見るか」という問いの問題でもあると、今回あらためて感じました。
慢性の痛みを抱えて来院する患者さんに、あなたはどこから問いを立てていますか。









