施術家の思考

腰を見ても腰は変わらない理由

「結果が出ないのは、技術が足りないからだ」

開業して数年、そう思い続けていた時期が私にはありました。矯正もマニピュレーションも、できる限り磨いてきた。それでも変わらない患者さんがいる。その事実を、ずっと自分の未熟さとして受け取っていました。

でも今は、少し違う見方をしています。

全身連動性の評価を考えるとき、私はまず「構造物」から入ります。骨盤・脊柱・頭蓋。この3つが、全体を見るときの大きなベンチマークになります。腰が痛い患者さんであっても、頭蓋や頸椎を確認せずに施術を進めることは、私にはできません。身体は部分の集合ではなく、全体のバランスの上に成り立っているからです。

ただし、ここで一つ整理しておきたいことがあります。

この「構造物としての骨格」は、あくまで評価のベンチマークです。施術の主戦場と同じではありません。

バイオタイポロジーの視点では、身体を4つのタイプに分類します。細長強壮(ホソナガきょうそう)・細長無力(ホソナガむりょく)・短躯強壮(たんくきょうそう)・短躯無力(たんくむりょく)です。

34歳以下はほぼ細長強壮に分類されます。この方々には、筋骨格メインの施術が中心になります。矯正やマニピュレーションが力を発揮しやすいのは、このタイプです。

一方、35歳以上になると身体の変化が起きやすく、細長無力・短躯強壮・短躯無力の3つに移行していきます。

細長無力の方は神経が過敏なことが多く、強いテクニックは逆効果になりやすい。短躯強壮であれば内臓が主戦場に加わります。短躯無力であれば、自律神経や頭蓋のアプローチが中心になり、矯正はメインになりません。

私が開業当初に持っていた武器は、鍼灸とカイロプラクティックでした。筋骨格の技術には自信がありました。ただ、細長強壮以外の患者さんに、同じアプローチを当てていた。結果が出ないたびに、「もっとうまくやれたはずだ」と考えていました。

鍼灸の経絡治療で「虚実」という感覚は持っていたので、なんとなくタイプ分けはしていたと思います。でもそれは言語化できていなかった。バイオタイポロジーの観点を整理したとき、「あの患者さんに矯正だけをやり続けていたのは、ベクトルそのものがずれていたのかもしれない」と感じました。

技術が足りなかったのではなく、主戦場の見立てが合っていなかった可能性がある。これは、開業当初の私には大きな気づきでした。

全身を見るということは、全身を触ることではありません。全身の見立てを立てること、です。

「この患者さんの主戦場はどこか」を判断できれば、次に使うテクニックの優先順位が変わります。施術後の再評価も意味を持ちます。変化が出たのか、出なかったのか。その検証が積み重なるほど、自分の判断軸は磨かれていきます。

今、結果が出ない患者さんを目の前にしているとき、あなたはどこに原因を見ていますか。

技術の問題なのか、それとも主戦場の見立ての問題なのか。この問いを持つだけで、次の施術の入り方が少し変わるかもしれません。

関連記事

  1. 腰痛・骨盤

    前屈時の左腰痛——再来院患者こそフラットに診る、腸腰筋アプローチの実際

    症例の概要30代男性、飲食業(立ち仕事・手作業多め)。3日前から腰…

  2. 内臓調整

    右背部痛の奥に何を見るか

    40代の患者さんが、右背部の痛みを主訴に来院されました。問診を進め…

  3. 内臓調整

    右背部痛2年。肩ではなく、肝臓を診た理由

    60代の女性の患者さんが来院されました。主訴は右肩甲骨まわりの背部…

  4. スポーツ・外傷

    膝の痛みを訴える患者さんの、本当の問題はどこにあるか

    50代の男性患者さんが、久しぶりにご来院されました。お子さんとサッ…

  5. 施術家の思考

    手術を勧められた患者さんに、私たちは何を伝えられるか

    50代前半の女性の患者さんです。整形外科で「即手術を」と言われ、他…

  6. スポーツ・外傷

    肉離れから1ヶ月半、なぜ腫れが取れないのか——標治と本治、両面からのアプローチ

    症例の概要40代男性、初診。スノーボード中に急激な足関節背屈がかか…

  1. 施術家の思考

    目の奥の痛みを、首だけで診ていないか
  2. 内臓調整

    メンテナンス期の慢性腰痛——肋骨角の硬さが示した、季節の変わり目と肝臓アプローチ…
  3. 施術家の思考

    鍼灸師の紹介状では届かない場所がある
  4. 施術家の思考

    画像に映らない不調に、どう向き合っていますか
  5. 施術家の思考

    狭窄症の手術歴があっても、検査は一から始める
PAGE TOP