症例の概要
40代男性、初診。スノーボード中に急激な足関節背屈がかかり、牽引ストレスによって右ふくらはぎ内側部(腓腹筋・ヒラメ筋周辺)の肉離れを受傷。受傷から1ヶ月半が経過しています。
整形外科で肉離れと診断、整骨院での超音波・電気療法を週2回継続してきましたが、改善の実感が得られないまま紹介で来院されました。
来院動機を深掘りする
「肉離れの回復が思わしくない」という情報は事前に得ていました。ただ、何に困っているのかはその人によって全く異なります。
歩行はできる。怪我後もスノーボードに行けている。日常生活に支障があるわけではない。
では何が問題か。
ヒアリングを深めていくと、腫れがずっと続いていることが一番の困りごとでした。触診でも左右差が明らかで、朝が最も強く腫れているとのことでした。
さらに聞くと、習慣にしていた月6回回のランニングがこの1ヶ月半できていない。ジムのウォーキングは可能だが、スピードを上げようとすると症状が出るのではないかという感覚があって走れない。
ただ、患者さん自身が一番気になっていたのはそこではありませんでした。
「なぜ腫れているのか、なぜ回復しないのか、原因がわからない」
見立てが立たないから方針も立てられない。その状態への不安が、来院の本質的な動機でした。
評価——局所だけを見ない
局所所見の前に、全身の状態を評価します。
座位での脊柱傾聴では胸椎の硬さはあまり目立ちませんでした。一方、座位で上後腸骨棘(PSIS)をランドマークに前屈してもらうと、股関節〜腰椎の動きが乏しく、胸椎だけが動く代償パターンが見られました。「体は硬いですか?」と聞くと「めちゃくちゃ硬いです」とのこと。
座位での回旋は可動域70〜90度と正常範囲内。ただ硬さの自覚はある。立位での回旋になると股関節の関与が乏しく、可動域は座位より狭くなる。
複数の所見から、腰椎と股関節の機能障害が背景にあると判断しました。
局所の肉離れに目が向きがちなケースですが、全身の機能的な問題が回復を妨げている可能性を、ここで押さえておきます。
局所所見——陥凹部と炎症の残存
患部を触診すると、脛骨内側縁に近い筋腱移行部付近に明らかな陥凹部を触知できました。圧痛もあります。患者さんが「内側が切れた感じがした」と自覚していた部位と一致しました。
受傷から1ヶ月半が経過しているにもかかわらず、腫れと熱感が残っています。背屈による牽引ストレスで症状が誘発されるかを確認すると、微妙なラインではありますが、陥凹の存在からは筋繊維の修復が十分に進んでいない可能性が読み取れます。
標治と本治——両面から同時に考える
今回のアプローチを整理すると、東洋医学でいう標治法(表に出ている症状へのアプローチ)と本治法(根本・本質へのアプローチ)の両面になります。
標治(局所)
陥凹部に対して、繊維を寄せるような求心性のストレスをかけながら通電しました。切れた組織をくっつける方向に刺激を入れることで、修復を促す狙いです。
また、受傷から1ヶ月半が経ってなお炎症所見が残っている点については、整形外科的な処置の優先度も含めて患者さんと共有しました。治療家として「整形外科での処置を先に検討すべき場合がある」という視点を持つことが、患者さんとの信頼構築に直結すると思っています。
本治(全身)
腰椎・股関節の機能障害を持ったまま患部への負荷が続けば、局所の回復は当然遅くなります。全身の機能的な背景を整えることが、今回の根本的なアプローチになります。
この症例で改めて感じたこと
「肉離れの後遺症」と聞いたとき、どこに意識が向くでしょうか。おそらく多くの場合、患部(ふくらはぎ)に向かうと思います。
ただ、今回の患者さんが本当に求めていたのは、腫れを取ることでも走れるようになることでもなく、「自分の体に何が起きているのか、なぜ回復しないのかを理解すること」でした。
その見立てを一緒に整理し、方針を言語化して共有すること自体が、初診における最も重要な仕事だったと感じています。
局所の処置の質はもちろん大事ですが、それと同じくらい「この人が何を求めて来ているのか」を初診の段階で正確に掴む力が、治療の質を分けると思っています。
おわりに
標治と本治、局所と全身、そして医療連携の視点。この3つの軸を同時に持てるかどうかが、スポーツ外傷・整形疾患の症例では特に問われます。
皆さんはこういった「炎症残存・陥凹あり」のケースで、どのタイミングでどこからアプローチしていますか。





