70代の女性の患者さんのことを、少し書かせてください。
主訴は自律神経の乱れと、強い不安感。定期的に来られていて、施術を重ねる中で少しずつ状態を観察してきました。
施術を通じて気になっていたことがありました。自律神経の症状として説明がつく部分もある。でも、何かもう一層、別のところに原因があるような感覚が拭えなかったのです。
そのうちのひとつが、貧血の可能性でした。
正確に言えば、いわゆる「隠れ貧血」と呼ばれる状態への仮説です。血液検査上のヘモグロビン値は正常範囲内でも、貯蔵鉄であるフェリチンが枯渇している状態は、見落とされやすい。そしてフェリチンが低い状態は、倦怠感・不安感・自律神経の不調として現れることがあります。
この患者さんは閉経からずいぶん時間が経っています。「もう生理もないから鉄は関係ない」と思われがちな年代です。ただ、フェリチンは貯蔵鉄です。過去に蓄えられなかったものは、閉経後も回復しているわけではない。むしろ長年にわたって低いまま維持されている可能性があります。
今回は施術の中でそのことをお伝えし、フェリチン鉄のサプリメントを試していただく提案をしました。断言したわけではありません。「こういう可能性もあるかもしれない」という、あくまで一つの仮説としての提案です。
鉄の種類については、少し整理しておく必要があります。ヘム鉄と非ヘム鉄、そしてフェリチン鉄は、それぞれ吸収率や体内での役割が異なります。症状や状況によってどの形態が適しているかも変わってきます。この分野については、藤川徳美先生の著作が入口として参考になります。「パニックは鉄不足が原因だった」という書籍は、鉄と精神症状の関係について丁寧に書かれており、施術家としての知識の補強にもなりました。
女性の患者さんを多く診ていると、鉄の問題は思った以上に広い範囲に影響していると感じます。生理のある年代はもちろん、閉経後の方でも「鉄は関係ない」とは言い切れない。自律神経・不安・倦怠感を訴える女性に、この視点を持っているかどうかで、見立ての幅はかなり変わります。
私が今回改めて感じたのは、「施術で触れる範囲」と「施術の外側にある原因」を、どう行き来するかということです。身体に触れることで得られる情報は確かにあります。でも、栄養状態・生活背景・血液の状態といったものは、触れるだけでは見えてこない部分がある。それを「専門外」と線を引くのか、それとも仮説として拾い上げるのか。
この患者さんとの関わりを通じて、その問いをまた持ち直しました。
あなたは施術の中で、「これは触れるだけでは届かない問題かもしれない」と感じた瞬間、どう動いていますか。






