「膝が痛い」という主訴で来院された60代の女性患者さんがいました。
歩行時や階段の下りで痛む。正座はできる。整形外科でレントゲンや関節液の確認をしてもらったが、異常は見つからなかった。リハビリを続けたが改善しない。そういう経緯でした。
問診と検査を進めると、膝そのものよりも腰部・臀部の状態が気になりました。腸腰筋や梨状筋に強い緊張がある。発症の経緯を聞くと、腰まわりの不調も重なっていました。
私の見立ては「坐骨神経痛による膝への放散症状」でした。
幸い腰椎に病理的な問題はなく、機能障害のレベルです。膝ではなく腰部・臀部を中心にアプローチしたところ、3ヶ月以上改善しなかった症状が変化し始めました。
もう一例あります。
50代後半の女性で、「左腕が上がらない」という主訴。整形外科で五十肩と診断され、リハビリを続けていた方です。職業柄、長時間うつむいた姿勢で顕微鏡を覗く仕事をされていました。
詳しく診ると、痛みは肩関節だけでなく、上腕から肘の先にかけても重だるさがある。可動域制限は確かに強いのですが、症状の分布が「五十肩」の範囲に収まっていませんでした。
斜角筋まわりに強い緊張があり、上肢全体への神経症状が出ている可能性を考えました。斜角筋へのアプローチとセルフケア指導を続けると、症状は大きく変わっていきました。
どちらの症例にも、共通していることがあります。
「症状のある部位」と「原因のある部位」が、一致していなかったことです。
慢性領域においては、痛みや不快感はあくまで結果として出てきているものだと、私は考えるようにしています。原因がどこにあるかは、別に探しにいかなければならない。
そのために私が大事にしているのは、発症の経緯と増悪・緩和の因子です。「どんな体勢のときに出るか」「温めると楽になるか」「動き始めると和らぐか」。これらを丁寧に聞くだけで、見立ての精度はかなり変わります。
さらに、過去の怪我や衝撃の有無も欠かせません。「昔に足首をひどく捻挫してから、右側に不調が出やすくなった」というケースは、実際によくあります。現在の症状の遠因が、何年も前の出来事にあることがある。
検査をして、反応の強い場所が「患者さんが痛みを訴えている場所」と違うとき、あなたはどちらを信じますか。
主訴をそのまま受け取ることは、患者さんの言葉を大切にすることではないかもしれない。私はそう感じながら、今も施術を続けています。
今日の施術で、あなたはどこから見立てを始めましたか。










