しびれが残っている患者様を前にすると、つい「まだ良くなっていない」と一括りに捉えてしまいがちだ。しかし神経そのものの回復と、関節や筋の機能的な制限の改善とは、そもそも別の時間軸で動いている。この違いを見立ての段階でどう切り分け、患者様にどう伝えるか。今回はその考え方を中心に整理してみたい。
以前の頸椎ヘルニアに由来する左母指のしびれと、右側の腰から足にかけての新たな痛みを抱えた患者様が、初めてのカウンセリングで来院された。薬に頼らざるを得ない生活からの脱却を強く望んでおり、神経系の薬に加えて安定剤・睡眠薬も併用していて、その副作用によるふらつきや脚の震えが、階段の昇り降りへの恐怖心にまでつながっていた。
見立てー何が原因で、何が原因ではないのか
姿勢を確認すると、頭部が前方に突出し、猫背・巻き肩の状態になっていた。首を上に向ける動作で痛みが誘発され、左への回旋では胸椎に強い硬さがあり、これが頸部への負担を増大させている構造だった。関節を機能単位で捉えれば、可動性を担うべき胸椎が硬さで動けない分、隣接する頸椎が過剰に働かされ、結果として頸部の症状として表面化する。この構造自体は、これまでの症例でも繰り返し見てきた通りである。
一方、しびれについては別軸で評価する必要がある。母指のしびれはC6領域の分布と対応することが多く、既往の頸椎ヘルニアとの整合性が高い。末梢神経の回復は軸索の再生速度に依存し、圧迫や損傷からの時間経過とともにゆるやかに進むもので、周囲の筋・関節が示す機能的な硬さとは改善のスピードがまったく異なる。つまり、しびれが残っていること自体は「治療が効いていない」ことの証明にはならない。ここを見立ての段階で明確に区別できるかどうかが、その後の説明や治療計画の質を左右する。
右側の腰から足にかけての痛みについても、腰を反らす動作で殿部から下肢への突っ張りが再現された。この所見は、単純な神経根症状というよりも、関節への荷重や周囲組織の緊張が絡んでいる可能性を示すものであり、頸部とは切り離して評価すべき所見として扱った。
アプローチー何を優先し、何を目安に進めるか
見立てに基づき、施術ではまず胸椎周辺の硬さへのアプローチを優先した。ここを動かすことで頸部への負担そのものを減らし、症状の再燃を防ぎながら、神経が回復しやすい環境を間接的に整えることを狙いとしている。しびれそのものを施術で直接消すことはできなくても、周囲の機械的なストレスを減らすことで、回復の土台を作ることはできる。腰部についても同様に、反らす動作で誘発される突っ張りを指標として、施術前後での変化を確認しながら進めた。
施術後には、首を上に向ける・捻る動作が明らかにスムーズになり、本人も「向きやすい」「上がりやすい」と実感されていた。腰の突っ張りも軽減しており、機能面での変化は初回から明確に現れている。こうした客観的な指標の変化を積み重ねていくことが、今後の治療計画の軸になる。
考え方ー薬を減らしたいという願いにどう向き合うか
「体を良くして薬を減らしたい」という思いを持つ患者様に対して、施術者として大切なのは、機能的に改善できる範囲と、神経の回復を待つ必要がある範囲とを、曖昧にせず線引きして伝えることだと考えている。可動域や痛みの変化という客観的な事実を積み重ね、それを主治医との減薬相談における材料として活用してもらう。そうした見通しの共有こそが、根拠のない期待も、逆の不安も生まない、地に足のついたサポートになるのではないだろうか。
セルフケアとしては、体質改善の指標として日々の水分摂取量ー体重×30mlを目安にしっかり確保することを伝えている。









